このリストは、以前、ニフティのFSUIRIにアップしたものです。
最近の収穫は入っていません。
《足跡のない殺人リスト(不完全版)》
二階堂黎人・編
テーマ別のリストというのも面白いと思い、ここには、純粋に「足跡
のない殺人」が出て来る推理小説をリストアップした。僕自身が読んだ
物を中心に、推理小説の入門書などに書かれていた物を加えてある。
ただし、単なる足跡トリックもの(たとえばクロフツの『ポンスン事
件』の靴の作為のようなものは扱っていない。
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題名(短編は(短)と記す)。作者。発表年。 推薦マーク。
(短編は収録本)。発行会社(現在手に入るもの)。の順番に記載。
(その下に簡単なコメント)
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【 1. 国内編 】
●「黒手組(短)」 江戸川乱歩 1900 (^_^)
『江戸川乱歩推理文庫(1)』 講談社
●「無遊病者の死(短)」 江戸川乱歩 1900
『江戸川乱歩推理文庫(2)』 講談社。
●「何者(短)」 江戸川乱歩 1929 (^_^)
『江戸川乱歩推理文庫(6)』 講談社。
(戦前には珍しい本格探偵小説。ラストシーンの名探偵の決めセリフが
楽しい。乱歩の「一枚の切符」や「石榴」やこの作品などはもっと評価
されてしかるべきだと思う)
●「白い密室(短)」 鮎川哲也 1958 (^_^)
『密室殺人』 集英社文庫
(『赤い密室』と並ぶ古典的作品。”足跡のすり替え”という絶妙的な
トリックが使われている)
●「矛盾する足跡(短)」 鮎川哲也 1969
『赤い密室』 サンケイノベルス サンケイ新聞社出版局
●「海辺の悲劇(短)」 鮎川哲也 1960
『密室殺人』 集英社文庫
●「マーキュリーの靴」 鮎川哲也 1980 (^_^)
『ブロンズの使者』 徳間文庫
(三番館シリーズで1・2を争う傑作)
●『狐の密室』 高木彬光 1977
角川文庫
●「白雪姫(短)」 高木彬光 1949
『白雪姫』 角川文庫
●『魔弾の射手』 高木彬光 1950
角川文庫
(カーの『黒死荘の殺人』の密室トリックを足跡のない殺人に応用した
ものだが、ミスディレクションの使い方が悪いので、あまり成功してい
ない)
●『十二人の抹殺者』 輪堂寺耀 1960
小壺天書房
●「白鳥の秘密(短)」 梶龍雄 1956
『密室探求 第二集』 講談社文庫
●「幼女の足音(短)」 楠田匡介 1952
『13の密室』 講談社
●「白魔(短)」 鷲尾三郎 ?
(どこで読んだのか忘れてしまった。『幻影城』か、『別冊宝石』か)
●「寒の夜晴れ(短)」 大阪圭吉 1936 (^_^)
『日本探偵小説全集 12』 創元推理文庫
(この人は、戦前のトリック・メーカーですね)
●「明日のための犯罪(短)」 天城一 1954 (^_^)
『13の密室』 講談社
●「冬の時代の犯罪(短)」 天城一 1974
『密室探求 第二集』 講談社文庫
●「涅槃雪(短)」 大坪砂男 1949
『13の凶器』 講談社
●『雪の魔法陣』 斎藤栄 ?
集英社文庫
●『白い家の殺人』 歌野正午 1990?
講談社ノベルス
●『雪密室』 法月綸太郎 1989 (^_^)
講談社ノベルス
(密室と足跡の謎を組み合わせたところが秀逸である。ただし、物語の
方は、シリーズ第1作目から『クイーン警視自身の事件』をやってしま
ったので、少し破綻していると思う)
●『伯林−1888年』 海渡英佑 1967 (^_^)
講談社文庫
(全乱歩賞受賞作の中でも一、二を争う傑作)
●『暗黒告知』 小林久三 1974
講談社文庫
●『斜め屋敷の犯罪』 島田荘司 1982 (^_^)
講談社ノベルス・講談社文庫・光文社文庫
(例の雄大な密室の謎よりも、足跡のない殺人の謎解きの方に感心させ
られた)
●『北の夕鶴2/3の殺人』 島田荘司 1985
カッパノベルス・光文社文庫
●『花の棺』 山村美砂 1975
カッパノベルス・光文社文庫
●『丹羽家殺人事件』 折原一 1991
日本経済新聞社
●『スウェーデン館の謎』 有栖川有栖 1995
講談社ノベルス
●「人喰いの滝」 有栖川有栖 1992
『奇想の復活』立風書房
【 2. 海外編 】
●「テレーズとジェルメーヌ(短)」 モーリス・ルブラン 1923 (^_^)
『八点鐘』アルセーヌ・ルパン全集(14) 偕成社
(最近、アルセーヌ・ルパンが少し軽んじられているようで、僕ははが
ゆい気持ちで一杯だ。ルパンの活躍の中にはトリックやプロットがふん
だんに盛り込まれていることを忘れるべきではないと思う。
この作品おトリックは、同時に密室殺人の一トリックの先駆けとして
も有名である)
●「雪の上の足跡(短)」 モーリス・ルブラン 1923 (^_^)
『八点鐘』アルセーヌ・ルパン全集(14) 偕成社
(『八点鐘』という一冊の短編集の中に、二つも「足跡のない殺人」が
出て来るのだから驚くばかりだ。
ここで生み出されたトリックも、「足跡のない殺人」のトリックの完
全なるスタンダードである)
●『三つの棺』 ジョン・ディクスン・カー
1935 (^_^)
ハヤカワ・ミステリ文庫
(カーの最高傑作にして、探偵小説史上の最高峰でもある。完璧なプロ
ット、驚異的なトリック(隠せるはずのないXXXだって僕は許しちゃ
う)、意外な犯人、そして密室講義。これ以上盛りだくさんな作品は今
後も生まれないだろう。
「足跡のない殺人」は二つ出て来るが、最初の方は密室殺人に付随し
ている。素晴らしいのは、二番目の〈カリオストロ街の問題〉の方で、
心理的なトリックをみごとにこなしている。
ところで、ハヤカワ・ミステリ文庫の三田村裕の訳には、犯人隠蔽の
一番肝心な部分にひどい誤訳があるので、早く訂正されることを希望し
ます)
●『黒死荘の殺人(プレーグ・コートの殺人)』 (^_^)
カータ・ディクスン 1934
ハヤカワ・ミステリ文庫
(殺人現場に足跡のない謎は、密室殺人に付随するものなのでたいした
ことはない。しかし、密室殺人ものの傑作としては古典である。読者の
目を欺いて、心理をルイス・プレージの短刀に釘付けする作者のミスデ
ィレクションの冴えをじっくりと味わってほしい)
●『白い僧院の殺人』 カーター・ディクスン 1934 (^_^)
創元推理文庫
(足跡のない殺人ものの古典でしょうね。必読)
●『テニスコートの謎』 ジョン・ディクスン・カー
1939
創元推理文庫
(冒頭に提出される殺人の謎は、実に魅力的である。こういう所を、我
々は、黄金時代の作家に謙虚に学ぶべきだと思う。
しかし、トリックの解明は機械的なもので、ある特殊な状況でしか使
用できない。残念である)
●『貴婦人として死す』 カーター・ディクスン 1943
ハヤカワ・ミステリ文庫
(まさしくカー以外には考えようもない技巧的なトリック。無理なよう
でいて無理じゃないところがすごい。
足跡を消すために、何と、三つの足跡トリックを複合させている)
●『引き潮の魔女』 ジョン・ディクスン・カー
1961
ハヤカワ・ミステリ文庫
(これこそ心理的錯覚トリックという奴。「騙されたっ」と、絶対にじ
たんだ踏んでくやしがるであろう。でも、実際にこれを行なうとしたら、
8マンか加速装置のあるサイボーグ009じゃないと無理だな)
●「空中の足跡(短)」 ジョン・ディクスン・カー 1940?
『カー短編全集 1』 創元推理文庫
●「見えぬ手の殺人(短)」 ジョン・ディクスン・カー 1963?
『カー短編全集 3』 創元推理文庫
●「翼ある剣(短)」 G・K・チェスタートン 1924 (^_^)
『ブラウン神父の不信』 創元推理文庫
●「笑う肉屋(短)」 フレドリック・ブラウン 1953 (^_^)
『まっ白な嘘』 創元推理文庫
●「終りの終り(短)」 マイケル・イネス 1966
『アプルビイの事件簿』 創元推理文庫
●『自宅にて急逝』 クリスチアナ・ブランド 1947
ハヤカワ・ポケットミステリ
●「屋根の上の男(短)」 クリスチアナ・ブランド
(ハヤカワ・ミステリ・マガジンに載っていた気がする)
●『ワイルダー一家の失踪』 ハーバート・ブリーン 1948
ハヤカワ・ポケットミステリ
(復刻されて、容易に読めるようになったが、幻の作品の方が良かった)
●「有蓋橋事件(短)」 E・D・ホック 1974
『密室大集合』 ハヤカワ・ミステリ文庫
●「不可能な“不可能犯罪”(短)」 E・D・ホック 1968
『密室への招待』 ハヤカワ・ポケットミステリ
●「過去のない男(短)」 E・D・ホック 1956
『密室への招待』 ハヤカワ・ポケットミステリ
●「奇妙な跡(短)」 バルドウィン・グロルラー
1908
『世界短編傑作集 2』 創元推理文庫
●「殺人者は翼を持たない」 アーサー・ポージス 1962?
『年刊推理小説ベスト20・1962年版』 荒地出版社
●『帽子から飛び出した死』 クレイトン・ロースン 1938
ハヤカワ・ミステリ文庫
●『サンタクロース殺人事件』 ピエール・ヴェリイ 1934
晶文社
●『魔の淵』 ヘイク・タルボット 1944
ハヤカワ・ミステリ・マガジン 1983年1月号〜3月号
(あまりと言えばあまりの珍品だ〜い!)
●「サミー・クロケットの失踪(短)」 アーサー・モリソン 1894^
『マーチン・ヒューイットの事件簿』 創元推理文庫
●『ソロ対吸血鬼』 D・マクダニエル 1966
ハヤカワ・ポケットミステリ 早川書房
(ナポレオン・ソロ(懐かしいなぁ)のシリーズ8作。これは推理小説
としてはアンフェアな方法が使われている。だって、音のしないXXX
XXーですぜ)
《足跡のない殺人》とは何ぞや?
密室殺人を含む不可能犯罪の一つである。
砂浜に一人の男が倒れている。男は背中をナイフで刺されて死んでい
るが、砂浜には、その男の足跡しか付いていない。では、加害者はどう
やって男の側まで行って、殺人を犯したのか?
あるいは、雪に囲まれた山小屋の中に、一人の男が死んでいる。しか
し、死体が発見されるまで、山小屋の回りには、誰の足跡も存在してい
なかったのだ。
言うまでもないが、これが、《足跡のない殺人》と呼ばれる謎である。
探偵小説史上、最初に《足跡のない殺人》を活字にしたのは、サミュ
エル・ホプキンス・アダムスという人の『飛ぶ死』という作品だと言わ
れている。これは確か、一九〇三年の『ストランド=マガジン』に載っ
たようだ。ただし残念ながら、この作品は邦訳がまだないと思う。内
容は、被害者以外の足跡のない砂浜に置かれた死体という、興味ある話
だったそうだ。
さて、そうした《足跡のない殺人》を、カーの《密室講義》風に分類
すると次のようになる。
《足跡のない殺人リスト》の個々の作品のトリックがどれにあてはま
るか、どうか調べてみてほしい。
一、犯行現場への足跡の行きと帰りを紛らわすもの(主に、後退りをし
て足跡を残すことが 多い)。
ア、状況により、行きと帰りが逆に見えるもの。
イ、後退りして、犯行現場から逃げるもの。
二、足跡に細工をしてごまかすもの。
ア、人間以外の足跡を付けるもの。
イ、他人の靴などを履いて、足跡を付けるもの(他の項目との組み合
わせが多い)。
ウ、最初の足跡の上をもう一度歩いて、別の足跡を付けるもの。
エ、他の複数の足跡で、自分の足跡を胡麻化してしまうもの。
オ、足跡が付いているが、痕跡がわずかで、気付かれないもの。
三、足跡を残さないもの。
ア、綱やケーブルなどを利用して、犯行現場へ空中から近付くもの。
イ、人の注意を引かないような物の上を伝わって、犯行現場へ行くも
の。
ウ、犯行後、何らかの方法で、足跡を消してしまうもの。
四、被害者の移動が絡むもの。
ア、被害者が他所で致命傷を負い、現場まで自力で歩いて来て死んで
しまうもの。死亡場所が、犯行現場のように見える。
イ、他所で死亡した被害者の死体を、その場で死亡したかのように見
せるため、運んで来るもの。
五、現場に隠れていて、事件発覚後に逃げ出すもの。
六、時間的錯誤。
ア、実際よりも、前に犯行があったと思わせるもの。
イ、実際よりも、後に犯行があったと思わせるもの。
七、殺人現場に、加害者が存在しないもの。
ア、殺人に見える事故または自殺。
イ、殺人に見える動物による死傷。
八、遠隔殺人。現場に近付かず、遠くから殺人を犯すが、至近距離での
殺人に見える。
九、自動殺人。
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